さて、前回の続きです。

手帳を選ぶ時に、手帳が好きな人ほど陥りがちな「いやな気持ち」=「使いこなせなかったら嫌だなあ」という、あの嫌な気持ちはいったいなんで出てくるんだろう、という事についてながながと考えてみました。

そこで「手段の目的化による弊害」というものがカギになるのでないかと思いました。

手帳をきれいに使いたい、空白があるともったいない、書き損じてしまうのが嫌だ……などの「使う前から上手く使えない事を心配するストレス」とは、手帳をきれいに書くという手段が目的化してしまい、きれいに書けない事にストレスを感じ、さらに目的も達成できないという、ストレス→挫折→自尊心が傷つく(自信を無くす)という体験に基づいているのではないか、という仮説です。

しかし!
やっぱり、手帳には何らかの効果がある思います。
それによっていろんなことがうまくいくのは確実です。
でもなぜ、多くの人が混乱に陥っているのでしょうか。

ここで重要なのは、手帳という手段は、目的化しやすいということです。

手帳には、とってもすごい効果があります。

歴史的に見ても暦は非常に重要で、政治の基礎であり、農耕や漁業、狩猟など生き抜く事に直結する情報でした。
長い歴史の中、何人もいた天才たちの手によって現在の暦が作り上げられてきました。

それをベースにしているスケジュール帳は、それだけでとても重要な意味を持つものです。
さらに、紙に書いたり、視覚的に変容させて、より時間というのもを把握しやすいようにブラッシュアップされた現代のたくさんの手帳たちは、それぞれに素晴らしい効果を持っています。

だから「この手帳さえあれば、きっと何でもうまくいく!」とか「自分にあった手帳術を身につけたら人生勝ったも同然!」と思うのは、当然でしょう。(そういう本もたくさんありますからね)
でも、そう思う事が「手段の目的化」がはじまる第一歩である可能性がとても高いのです。

手帳を使う上で一番効果的なのは「その手帳の効果を楽しむ」事だと思うんですよね。

でも、効果を実感するためには、使い方を学ぶ必要がある。
このプロセスが、手帳を使う事の「手段が目的化しやすい」ポイントになってきます。
基本的に勉強やトレーニングって、それが目的になりがちなのです。

多くの人が「この手帳さえ買えば、この手帳術さえ身につければ人生バラ色」という夢をみて手帳を買ったり使ったりします。
それはとても楽しい事だし、ときめくし、すてきな事です。
でも、それをうまく使えないことでストレスを感じ、自信さえなくしてしまうのは、本末転倒です。
そのうちにバラ色の人生を夢見た事さえよくなかったと思ってしまうかもしれません。
人生に希望を持つ為に手に取った手帳が、自信をなくし投げやりな気持ちになる結果を招いてしまう。

それはよく起こっています。
手帳自体が手段の目的化が起こりやすい構造を持っているからです。

それに対する解決策のひとつとして「目的を明確にする」という方法もあります。

『どういう目的があって、なぜその手帳を採用したのか』を、先の先まで考える。
これは前回の内容の「明文化されていない目的」を考えてみるというとこです。
たとえば、選んだのは値段とサイズがちょうどよかったから。
なぜなら、お金をあまり使いたくないし重たいものを持ち歩くのは嫌だし、でもいつでも予定を書き込める必要があるから持ち歩ける軽いものがいい。それはなぜか??としばらく考えてみるのです。

よく仕事上で「目的を明確にしよう」みたいな会議があるかと思いますが、目的をある程度細かくはっきり明文化するのはとても効果的です。

たとえばこの例にしてもいくつかヒントがあって「お金を使いたくない=違うものを買いたいという目的がある」「持ち歩くから軽い方が良い=外出先で予定を書き込む=常にスケジュールを把握し管理する目的がある」など、推理ポイントがそろっています。
自分の本当の目的を、自分で冷静に推理してみると、なんだか違う目的が見えて来たりすることもあって、楽しいです。
ある程度その目的が明確になったら、それを文章や標語にして紙に書いてみるとさらに効果があります。

ということは、すべての目的を先の先まで考えて、明文化したら全部解決するのでしょうか・・・というと、実はそうでもないのです。

明文化しない/できないことには重要な意味があります。
目的は何段階にも重なっており、それはその時々の環境や状況に応じて変化していきます。
すべてを明文化し固定してしまうと、それらの変化に対応することができない。つまり柔軟性を失ってしまう原因にもなるのです。
すべてを完璧に明文化し、はっきりさせる事はよい事とされがちですが、そうしない事にも重要な意味があることを忘れてはいけないのです。
明文化されない目的の方向性を失わないように、方位磁石のような役割でスローガンやクレドなどがあります。スローガン、理念、ビジョン、クレドなどなど、それらが重要と言われるのはそのためです。それは個人の生活、人生においてもきっと同じように言えるのだと思います。
「私はビューティでゴージャスな女として生きるが目的なのよ!」となったら「貧相でみみっちい事」はしなくなるでしょう。目先の判断が実は間違っていたという事にすぐに気づくことができます。

でも人生の方向性なんて、なかなか簡単に見えたりしないです。
だから「目的って言われてもコロコロ変わってしまう」という人がいるのは当然です。

振り回されて苦しんで傷ついて、やっと「あっ、違った!」って気づくこともありますから、苦しむことがすべて悪い事でもないです。
だから今まで手帳を使う上で傷ついたり自信を無くしたことも、とても良い体験になっていくでしょう。

それに手帳は何度でも取り換えが効きます。人間関係みたいに一度壊すとなかなか大変というものでもありませんから、何度かチャレンジしてみるのもいいと思うのです。

好きな言葉で「たった数千円の手帳代を惜しんで自分の人生の素晴らしい時間を捨てるのか」というものがあります。
いや数千円は高いかなと思ったのですが、もし余命半年ですって言われたら何百万円もする治療にトライするだろうと思うし、そうなると人生の価値を数千円で貶めるのもちょっと違うのかも。人生は時間の積み重ねでもあるから。

人生で一冊しか手帳が使えないなんてこともないです。
小さな目的に沿って、それぞれ手帳を用意してもいいのです。
手帳が夢を叶えてくれるのではなくて、夢を叶えるために手帳を使うのです!

願いを叶えることが目的だとしたら、そのために手帳はとても強い力を貸してくれます。

でも、別に手帳なんか使わなくたって夢を叶える方法はいくらでもあります!
それを忘れたら、ダメですよ。
手帳の「手段の目的化」トラップにつかまってしまいます。

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